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盛岡地方裁判所二戸支部 昭和39年(ワ)7号 判決 1965年8月12日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告火石三治が被告苅間沢市松に対する強制執行として盛岡地方裁判所二戸支部昭和三七年(ワ)第一〇号(請求趣旨には第一号と前記されているけれども第一〇号の誤記と解す。以下同じ)不当利得金返還請求事件の執行力ある判決正本に基き盛岡地方裁判所二戸支部に申請したる別紙目録記載の不動産に対する同裁判所昭和三八年(ヌ)第一号強制執行手続は之を許さない。訴訟費用は被告等の負担とする。

旨の判決を求め

その請求の原因として

一、被告火石三治は被告苅間沢市松に対する強制執行として盛岡地方裁判所二戸支部昭和三七年(ワ)第一〇号不当利得金返還請求事件の執行力ある判決正本に基き盛岡地方裁判所二戸支部に対し別紙目録記載の不動産(以下本件不動産と略称する)に対する強制競売の申立を為し同執行裁判所は右申立に基き同裁判所昭和三八年(ヌ)第一号強制競売事件として競売開始決定の上同不動産を差押えた。

併し乍ら本件不動産は昭和一二年三月原告が被告苅間沢市松より贈与を受けて爾来耕作若くは住居用として使用中であり納税も原告が行つているので原告の所有である。

二、即ち被告苅間沢市松は原告の父であるが昭和一二年三月一〇日頃かねて病臥中のその妻たる原告の母ナツ及びその子原告等兄弟を捨て、情婦と共に原告宅を立ち去るに際しその所有に係る本件不動産を原告に贈与した上、自らは九戸村伊保内の開拓地に入り同地の女訴外小笠原サメと同居するに至り一方右贈与を受けた原告に於ては、爾来今日まで該物件を自己の所有物として利用収益して来たものである。

三、被告市松が前記小笠原サメと同居期間中被告市松は原告及び原告の弟訴外苅間沢徳次郎に対し極度の金銭的迷惑をかけた為め、訴外小笠原道夫がこの状況を見兼ねて仲裁役となり昭和三〇年一〇月一三日原告等の親戚一同と共に原告および右徳次郎並びに被告市松三者間の話合を斡旋した挙句「原告は市松に対し、金一〇万円と曩に受贈した不動産のうち、下平畑二反歩を贈与すること、之に対し市松は原告に対して曩に贈与した本件不動産の移転登記を無条件で速かにすること。徳次郎は市松に対し金一五万円を贈与して、曩に市松より受贈した山林通称「山根山」の贈与の点を再確認すること」と定めた示談契約を右三者間に成立させた上、この点を「和解条項」と題する文書を作成して明かにした。

而して被告火石三治は右の会合に立会人として参加し、被告両名は右「和解条項」書各一部を所持しているから、被告両名は本件不動産が原告の所有であることを充分知つているものである。

四、仮りに右贈与が無効であるとしても原告は前記昭和一三年に被告市松より本件不動産を贈与されてこれが引渡しを受けその占有を始めて以来今日に至るまで自己の所有物として平穏公然に占有を持続して利用収益しているのであつて、右占有の始め善意にして且無過失であるから、原告は昭和二三年末においては既に民法第一六二条第二項によりその所有権を取得しているから該時効取得を本訴に於て援用する。

又若し仮りに右条項に該当しないとしても、昭和三三年末迄には原告は二〇年間所有の意思をもつて本件不動産を平穏且公然に占有していたものであるから前同条第一項によりその所有権を取得しているから本訴に於て該時効取得を援用する。

五、被告等の仮定抗弁に対し、原告が被告等の主張の如く本件不動産につき所有権の対抗要件たる登記を有しないことは認めるが右登記欠〓の故を以て原告の所有権取得を第三者である被告火石に対抗出来ない旨の主張は争う。

即ち原告は昭和一三年前記贈与を受けその引渡しを受けて以来本件不動産を平穏且公然に占有して今日まで利用収益して居ることは被告火石の知悉して居るところであり、尚昭和三〇年一〇月一三日成立した前記示談契約に際しては被告火石も右会合に立会人として参加し該和解に関する文書に署名捺印した上該文書の一部を所持して居るのであるから、当時被告火石が本件不動産の実質上の所有権が原告に帰属し居るものなることを確認したものと謂うべく、斯様な関係にある被告火石が本訴に於てにわかに原告の本件不動産の所有権を否認するが如き行為は著しく信義に反し、従つて被告火石は登記の欠〓につき正当の利益を有する第三者に該当せず原告は登記なくして右所有権を被告火石に対抗し得るものと解すべきである。

六、被告市松は前記和解調書に基き本件物件の原告に対する所有権移転につき農地法第三条所定の県知事の許可を受けるため昭和三二年原告と共に山形村農業委員会に対し右申請をなし、同委員会において之に対する同委員会の意見決定につき之を同年四月一日可決した。

斯る経緯があり乍ら被告市松は本件強制執行を受け乍らこれに対して何等の異議を申立てることもなく、却つてこのことを原告に秘して被告火石と相謀り右強制執行を進行せしめつつある次第なるにより本訴に及んだ次第である

と陳べた。

立証(省略)

被告両名訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め答弁として、

原告の請求原因中

一、第一項中被告火石が原告主張の如く本件不動産につき強制執行手続をなしたことは認める。右不動産が原告所有であることは否認する。

二、第二項の事実は不知。

三、第三項の事実は否認する。

四、第四項の本件不動産を時効によつて取得した旨の主張は否認する。

五、仮りに原告においてその主張の如く贈与により又は時効により本件不動産の所有権を取得したとしても、原告は所有権の対抗要件たる登記を有しないこと明かであるから、該所有権取得を以て第三者たる被告火石に対抗することが出来ない。

六、第六項の事実は不知。

七、原告は被告火石が所謂「正当の利益を有する第三者」に該当しない旨主張するけれども民法第一七七条の第三者は善意悪意をとわないこと判例上明かであり、尚被告火石は原告主張の如き「和解調書」作成の際立会したが、その後被告市松と原告間に紛争が生じ被告市松は「和解調書」の効力を否認するに至つたので被告火石は本件不動産の実質上の所有権帰属を確認することができず、結局公簿を信用せざるを得なかつたものであるから原告の主張は理由がない。

と陳べた。

立証(省略)

別紙

目録

岩手県九戸郡山形村大字荷軽部第七地割二三番

字苅間沢

畑   四畝二二歩

同上二四番字同

畑   四畝八歩

同上二九番字同

畑   二反九畝二五歩

同上第八地割一八番の一字同

畑   三畝二〇歩

同上二三番字同

宅地  一〇九坪

同上二四番字同

畑   九畝七歩

同上二五番字同

畑   九畝一〇歩

同上三三番の一字同

畑   五畝二四歩

同上同番の二字同

宅地  二一坪四合五勺

同上三四番の二字同

畑   二畝一一歩

同上三八番字同

畑   三畝二五歩

同上三九番の一字同

畑   一反五畝七歩

同上同番の二字同

田   一反二畝一〇歩  内畦畔一畝四歩

同上四〇番字同

畑   六畝一三歩

同上四四番字同

畑   五畝一六歩

同上四五番字同

畑   二反四畝二三歩

同上四六番字同

畑   二反六畝二七歩

同上四七番字同

畑   四畝七歩

同上四九番字同

畑   一反一畝二〇歩

同上同番の一字同

畑   一畝一六歩

同上同番の二字同

原野  一反九畝五歩

同上同番の三字同

田   四畝一三歩

同上五〇番の一字同

畑   一反五畝一七歩

同上同番の二字同

田   六畝一一歩  内畦畔一畝歩

同上五一番の三字同

原野  一反三畝一二歩

同上同番の四字同

畑   六畝二三歩

同上五三番字同

畑   二反七畝一七歩

同上同番の一字同

畑   六畝一五歩

同上同番の二字同

畑   三畝一〇歩

同上五六番字同

畑   二反二畝二〇歩

同上五七番字同

畑   七畝二〇歩

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